消える北極

-イヌピアット、ホッキョクグマ、そして地球温暖化と環境変化ー

はじめに

ここ10年ほど、数ヶ月に一回は世界のどこかで起きた自然災害のニュースが報じられている気がします。我々先進国の人間は、飽きやすいのか、慣れてしまったのか、「またかぁ 地球はおかしいねぇ」と他人事のようにとらえて終わっていきます。

地球温暖化と環境汚染という地球規模の問題において、最も深刻な影響を受けているのが北極地方です。National Geographicは最近、消えつつある北極の特集を組みました。そして最近、10年以上北極地方に興味を持ち、北極地方単独歩行を試みているハマンダの先生兼探検家のキャメロン・スミスが、アラスカ最北部に住むイヌピアックの村に今年の2月一ヶ月滞在し、そこで学んだこと、聞いたことをハマンダの学校で発表しました。

ホッキョクグマの数が減り、絶滅の危機にあるとの警告が、学者そしてアラスカ北海岸地方に住むイヌピアットから警告されています。ここでは、キャメロンの話とそれに関連した学術論文をまとめ、地球温暖化で文字通り絶滅危機にあるホッキョクグマ、そしてイヌピアックの生活について書きたいと思います。

地球温暖化

地球温暖化は、北極地方の先住民の生活・文化に大きな打撃を与えています。イヌピアットは、彼らの生活の場である海の状況-水深、水温、海流、塩度、海氷の流れ、海氷岸、海氷塊など-を、文字通り何千年にわたり観察し続けてきました。地球温暖化によって、海氷は溶け、海氷地は縮小後退し、その結果、北極地域の海面積が増加しました。海面積の増加は、海上の状況に大きく影響しています。例えば、風の影響が増加し波が大きくなり、そして海流が早くなってきています。このような海の変化は、小型ボートを用いてグループで捕鯨する北極圏先住民の命にかかわる問題となっています。

海氷地の縮小と薄氷化も北極圏先住民にとってあまりに深刻な問題となっています。なぜならば、海氷地はかれらの生活資源を確保する場であるからです。グリーンランドエスキモーの指導者であるアックァルク・リングAqqaluk Lyngeは、彼らの生活を「あなたがたがスーパーマーケットに行くように、我々は海氷地に食料調達に行くのだよ」と表現しています。しかし、今まで安全に移動できた場所が、薄氷化によって困難となってきています。雪は過去になく湿ったものが降り、降水量も増加しています。その結果、内陸部において川や湖が増水し、侵食が深刻な問題となっています。侵食と溶解による海氷地の縮小は、単純に人間そしてその他動植物の生活区地が縮小することを意味します。

また地球温暖化によって、イヌピアットらアラスカ先住民が伝統的に、そして北極圏ではいまでも使用されている自然冷氷庫permafrost storage (storing foods inside ice)が使用困難になってきています。今まで溶けることの無かった氷地に穴を掘り、食料などを保存していたのが、地球温暖化により氷が解け使用不可能になった村もあります。

 生態系の変化

地球温暖化によって、北部アラスカを含む北極圏の生態系は大きく変わろうとしています。生息域の縮小に伴い、飢えたホッキョクグマが海岸沿いなど人々の住む地域まで入り込んでくるケースが増えてきています。「ごみ熊」"garbage bear"と呼ばれるほど、町などのエリアに人々が生み出すごみをあさりにくるクマが増加しています。人の出すごみにつられてヒトの生息域に姿を現したのはホッキョクグマだけではありません。他にはカモメ、カラス、グリズリーベア(灰色熊)、うさぎやねずみなど様々です。また今まで極寒地アラスカ北部で見られなかった虫類も多く見られ、このような虫類は貴重な食料に群がるだけではなく、北極地方に住む野生動物そして人々にあたらな疫病も持ち込む、もしくはすでに持ち込んでいると言われています。これらの生物は、温暖化にともない北上してきたものです。ホッキョクグマの絶滅危機問題は、この大きな問題のうちのひとつです。

ホッキョクグマ

ホッキョクグマは、北極地方の象徴ともいえる動物です。ホッキョクグマは海氷の上で生活し、呼吸や休憩のため海上に上がってくるアザラシなどを食べて生きています。地球温暖化現象によって、北極地方の海氷は解けはじめ、海氷の表面積は縮小してきています。縮小または溶解によって分解した海氷地のため、ホッキョクグマは海氷間を泳ぐ量が時間、距離とともに増えます。その結果、多くのホッキョクグマは疲れ、アザラシ狩の成功率も落ちます。または、溺死することもあるそうです。はるか彼方北極で氷が溶けている-他人事のように感じられている一方で、ホッキョクグマの生息地は消滅し、ホッキョクグマが絶滅の危機にあります。

ホッキョクグマの減少は、乱猟が原因という意見があります。しかしイヌピアットはこの考えに異議を唱えています。イヌピアットは何千年もの間、ホッキョクグマと共に極寒の北極地方で生きてきました。ホッキョクグマがいなくなると困るのはイヌピアット自身であり、乱猟は社会、文化的に規制されてきました。イヌピアットによって長年続けられてきたホッキョクグマ猟を禁止することは、彼らの経済に大きな影響を及ぼすばかりではなく、彼らが長年成功してきた資源管理、それに基づく彼らの生活を侮辱するものである、とイヌピアットの人々は批判しています。

イヌピアットからは、ホッキョクグマの減少は病気が原因との主張もあります。しかし、US Fish and Wildlife Serviceは、ホッキョクグマが病気にかかっているという事実は確認されていないため、この考えの正当性、そしてその防止に否定的です。USFWSはそのように主張しますが、北極地方に生息する人間を含む哺乳類動物への化学物質汚染は、幾度となく指摘されています。

文明の「発達」の代価としての化学物質汚染の中に、持続的有機性汚染物(POPS, persistent organic pollutants)というものがあります。POPSは、人体も含む有機物に蓄積しとどまるする汚染です。北極地方の極寒環境は、毒素の自然分解を遅らせるといわれています。その結果、北極地方には、その他の地よるも長くそして濃く汚染物がとどまるそうです。毒物学者によって、北極はダイオキシンのような体内蓄積される産業大気汚染物の最終到着点であることが確認されており、ホッキョクグマやカリブーの体脂肪内にも高濃度なダイオキシンとポリ塩化ビフェニールが蓄積されているとの報告が出ています。

アラスカを含む北極地方におけるエネルギー資源開発は1968年にプルドホー湾に始まってから活発化の一方をたどっています。その後約35年間で、14億バレルのオイルが生産されました。1バレルは154リットルです。アラスカ北部には、更に20億バレルのオイルが生産可能といわれています。今や北極地方には、石油やガスを北極からカナダ・アメリカに輸出するためのパイプラインが蜘蛛の巣のように拡大しています。石油やガスといったエネルギー資源開発は、その設備からのオイル漏れや流出、ドリルで取り出された土砂の泥化とその流出など、さまざまな形の副産物を生み出し北極地方の環境と生態系を汚染し続けています。

資源開発のともに北極地方の土地と水を汚染し続けているものとして一九四〇年代に設けられた米空軍の旧防衛施設(FUDs, Formally-Used Defense sites)が挙げられます。太平洋戦争時代、アラスカ西部のコディアック諸島は一時期旧日本軍に占領され米軍が後に取り返すこととなった激戦地のひとつでした。北極地方アラスカにはその時代に置かれた米空軍の防衛設備は現在使用されておらず、老朽化した設備は、有害汚染物質を発生し様々な環境汚染の原因となっています。

太平洋戦争が残した旧軍事施設からの汚染、エネルギー資源開発の副産物としての有害汚染、そして私たち先進国における文明の生活から生まれた汚染物質は風に乗り、雨や雪となり北極の大地にたどり着きます。そしてその大地の恩恵を受ける動物やイヌピアットの人々の体に蓄積され、次世代の人々に負の財産を残していきます。しかし、USFWSは、バローで行われたホッキョクグマを絶滅危機種に指定するか否かという会議において、イヌピアットに対し、ホッキョクグマが資源開発に伴う環境汚染の影響を受けているという事実はいまだ実証されていないとその可能性を否定しました。一方で、アラスカ先住民女性の母乳には高濃度の持続的有機汚染物質が含まれている、という悲しい研究結果が出ています。

 

地球温暖化と北極地方先住民

以上、簡単にアラスカ先住民イヌピアットとホッキョクグマ、そして彼らが代々住んできた土地に影響を及ぼす環境変化について述べました。キャメロンも視聴者として参加したバローにおけるホッキョクグマ保護に関するタウンミーティングで、アメリカ政府側が野生動物絶滅危機の原因としてあげるのを避けたもの、それは地球温暖化と人類による影響という要素でした。地球温暖化とホッキョクグマの絶滅危機は、間違いなく関連したものです。この事実から目を逸らすことは愚行といっても言い過ぎではないでしょう。本当の問題点と原因解決に取り組まないまま、ホッキョクグマを絶滅危機種に指定してもホッキョクグマの保護が成功することはないでしょう。

ホッキョクグマが一息つく海氷は、消滅への一路をたどっています。ホッキョクグマを絶滅から救う案は、北極地方で展開するエネルギー資源開発の停止、そして地球温暖化を緩和するものでないと効果はありません。

イヌピアットの適応、我々ヒトの適応

何千年と極寒の地アラスカ北部で生き続けてきたイヌピアットと彼らの文化は、様々な環境変化に適応してきました。現代の地球温暖化による生活圏の縮小と変化にどのように適応していくのでしょうか? 個人レベルでは、狩猟の時間と空間を変えるというものがあります。しかし、捕鯨のような経済活動においては、鯨の移動に合わせて行われるため、簡単に変えれるものではありません。コミュニティーレベルとしては、地球温暖化という重要課題に真っ向から取り組めない時間的、そして経済的困難があります。北部アラスカ自治政府には、効率的な資源管理と環境汚染改善に本格的に取り組めるようなインフラストラクチャーを整える経済的余裕はありません。

一方で、海氷の溶解と海氷地のさらなる(北極点への)後退を歓迎する人々もいます。米海軍がそのひとつです。米海軍は、海氷地後退にあわせて、2050年までに北極地方から海路の確保を計画しています。ここでは地球温暖化は問題として捉えられてないようです。問題は、問題とその原因が本当はどこにあるかを我々先進国に住む人間が理解しながらも何の実質的行動も起していないという事実ではないでしょうか。

「文明」がうみだした地球温暖化の一番の被害者は、経済的にも地理的にも周辺的立場である北極地方に住む人々と動物たちです。環境汚染や地球温暖化、資本主義という始末書というべきこの請求書は、アラスカのような北極地方に回されています。このツケは、どれだけ支払いを遅延できるのでしょうか?どれだけ支払いを突き付け続けられるのでしょうか? 本当に支払いを、この始末書を片付けるべき人は一体、我々先進国に住むもの以外どこにいるのでしょうか?

リングは切実にかつ正確に北極地方に住むイヌイット、イヌピアット、ユピック社会への地球温暖化の影響について述べています:「北極地方における環境変化は、経済的に痛手を被りえない環境問題だなんて簡単なものではないのです。我々にとって、これは我々と我々の文化の生存が懸かっている問題なのです。これは人類の問題で、人類が解決しなければならない問題です」。

最後にナショナル・ジオグラフィックの以下のサイトを除いてみてください。

http://www7.nationalgeographic.com/ngm/0706/feature1/map.html

みなさんは、氷のない北極点を想像できますか?私たちのひ孫の時代には、シロクマはもういないかもしれません。私たちの孫・ひ孫世代は、コカコーラを飲むホッキョクグマ親子を見てもその白い動物が何かわかりません。恐竜の絶滅の原因はいまだに不明ですが、ホッキョクグマが絶滅した場合、その原因は明らかです。あなたは孫に、その白い動物がいなくなった理由を話さなければいけません。

南国の島々も海面上昇で消滅しているでしょう。既にいくつかの島ではニュージーランドやオーストラリアへの避難が始まっています。避難という言葉は正しくありません。なぜなら、彼らの島は消えてしまうので戻れないのだから。ナショナル・ジオグラフィックのサイトでは、2100年の北極のシミレーションを見ることができますが、2100年に我々が生きている保証はどこにもありません。アラスカ北部にはまだ20億バレルもの生産可能なオイルが存在する。それが枯渇するかどうかという問題の前に、枯渇する前に我々が生存可能な地球環境があるという保証はありません。

科学者たちは、2015年が地球温暖化問題のK点になる、と警告しています。このまま我々が地球温暖化と環境破壊に真剣に取り組まずに時間が過ぎていったと家庭すると、2015年を境に地球温暖化はもはや人間の(科学の)範囲を超え、止めれなくなるそうです。残り8年でどれだけ、我々は問題解決に真剣に取り組む社会を創り出せるのでしょうか?

リングは、我々先進国に住む人々に、グリーンハウス現象の原因となる排気ガス排出を大幅な削減を直ちに行うように、とメッセージを送っています。彼は、私たちに彼らのような狩猟採集生活をしろと要求しているわけではありません。彼は、我々が、今の我々の生活を少し変えることを願っています。

自転車通学・通勤したり

暖房を強める前に厚着をしたり

冷房の温度を適度にしたり

無駄なごみを出さないようにしたり

リサイクルに積極的になったり

こんな小さなことでは、地球温暖化は止められないという意見もあります。確かにそうですが、世界の果てで、地球温暖化が生存問題となっている人々や動物を救えるのならやる「価値」はあるのでしょうか?

本当のコストは何で、誰が払うのか―お金以外の単位で考えてください。

 

 

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